チェルノブイリの祈り
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ(松本妙子訳),2021,完全版チェルノブイリの祈り──未来の物語,岩波書店.(5.6.2023)旧ソビエト連邦は、チェルノブイリ原発事故を隠蔽し、事故現場の写真、動画撮影を厳しく禁じた。したがって、事故や住民避難の記録は、ほとんど残っていない。しかし、事故により、故郷や、自らか肉親、配偶者の命を奪われた者たちの声は、本書をとおして永遠に残り続ける。未曾有の人災にみまわれた市井の人々の声の数々が、呪詛のように響き合う。一九八六年四月二六日午前一時二三分、その事故は起こった。人間の想像力をこえる巨大な惨事に遭遇した人びと。彼らの語る個人的な体験、苦悩をとおして放たれる切なる声と願いを、作家は被災地での丹念な取材により書きとめる。消防士の夫を看取る妻、事故処理にあたる兵士、動...チェルノブイリの祈り